『ジェレミー・レナー 逆転のメソッド』──死なない、お目々きらきらジャイアン

 AmazonからFilmarksに至るまで、本作に関するありとあらゆる日本語のレビューで言及されているとは思うのだが、こういう邦題でありながらジェレミー・レナーは主役ではないのである。これが他の俳優であればハァ〜商売ってのァ大変だなァ〜で終わらせる話なのだが、いちレナーファンとしては『ハート・ロッカー』の直後は「ジェレミー・レナーをタイトルに据えれば売れる」という判断がアリだったんだなあと遠い目をしたくなる話だ。 
 じゃあこの映画は何なのかと言えば、「おしゃべり栓抜き」というジョーク商品を発明してめちゃ儲けたパシフィックプロダクション社のマイケル・クラムさんという人が、自分の体験に基づいて製作した映画……という代物なのである。監督は流石に違う人が担当したが、脚本もマイケル・クラムさん本人が“マイク・クラム”という筆名で書いた、という触れ込みで、そんなフィクションみたいなことあるんですか? それもフィクションだったらどうしたって破滅のお子さまセットが待ち受けているセッティングじゃないですか? という気持ちになるのだが、そこは流石アメリカン・ドリームの国とでも言ったらいいのか、まあ普通に観られる出来なのである。ハリウッド式脚本術ってすごい。みんなも感情のジェットコースターを作ってハリウッドに行こう。

 話は単純で、ダラス・ロバーツ演じる“マット”が高校時代からの親友であるサム(ジェレミー・レナー)と“インターナショナル・ギフト”社を経営し、やがて「おしゃべり栓抜き」が成功してやった〜となる話である。その間に発明品のアイディアをテレビ通販のプロデューサーにパクられたりとか、恋人ジーナ(アイェレット・ゾラー)に銀行から融資してもらった金をサムにノセられてギャンブルで全部溶かして愛想を尽かされたりくっついたりとかが挟まる。大体ジェットコースターが想像できたでしょ? そういうソツがない話を、ジェフ・バルスマイヤーという監督が実にソツなく映画にしている。思わずロマコメかと思ってしまったくらい全体的に赤味が強調されていてちょっと目が痛い(Imdbくん曰く監督デビュー作はロマコメだ……それにしてもレナーの唇までピンクにしなくてよくない?)とか、顔面占有率が高いのはまあいいけどそれがダラス・ロバーツだとちょっとキツいとか、出てくる発明品がなんせ「おしゃべり栓抜き」なのでシーンの転換で時折挟まる「スティーブ・ジョブズ曰く……」みたいなモノローグが全部高度なギャグに見えてくるとか、そういうことを気にするのは野暮というものなのでしょう。 

 ところでジェレミー・レナーがインディペント映画から大予算映画へと活動の軸足を移しはじめた時期によくやっていた役柄をひとことで言えば「洋製ジャイアン」で、たとえば『S.W.A.T.』のギャンブルや『ジェシー・ジェームズの暗殺』のウッドなどがそれにあたり、集大成は2018年現在『ザ・タウン』のジェム・コフリン。下品なことを言い、安易に暴力を行使し、その上誰かに寄生しないと生きていけないタイプのクズ。絶対に関わりたくないという気持ちになるし、映画の落とし所で死んだりすると、まあ、そうなるよね、と思うようなそういう役柄。ハリウッドならジャイアンは成人している限りシナリオの倫理バランスを取るために死ぬのだし、その時期のレナーを観るということはクズがクズのまま死んでいく様を見届けることに等しい。
 しかしこの『ジェレミー・レナー 逆転のメソッド』のレナーはちょっと違う。やっていることはジャイアンなのだが、ドラえもん機能が備わったのび太をきちんとモノにした成功例であり、死なない。実話に即しているということなので、実際に死ななかったということなのでしょう。よかったですね。レナー演ずるところのサムくんは何だかこう、クレヨンしんちゃんとかを観ていた時の気持ちが蘇ってくるような……絶対失敗するでしょ、ということを始めて綺麗に失敗してくれるので、見ているとあたたかい気持ちになれるキャラクターでした。バツ2なのに全然反省してなくて、完全に“マット”くんに寄生する気満々で、おまけにギャンブル依存症と、なかなかの傑物。でも(自分のせいで)別れた“マット”とジーナの仲を取り持ったりするやさしい一面もちゃんとあるから映画版の方なんだと思う。見た目もどちらかと言えば『ジェフリー・ダーマー』の頃のような、ぷくぷくしてるのに目だけ妙にキラキラしててヤバそう、でも喧嘩したら勝てそう……みたいないい塩梅なのだけど、ただ製作側がレナーの顔の構造をよく分かっていなかったのか、写りがヤバい瞬間がわりとある。近作の監督がレナーをちゃんと撮影してくれていることがよくわかりますね。
 しかしこのサムくん、ハンディカムでセフレとハメ撮りするシーンまで入っていて、よくこれ脚本に入れるの許可したなと……いやしかしこのサムも実在の人物じゃなくて映画のために創作されたキャラだったりするかもしれない。というかパシフィックプロダクション社もマイケル・クラムもGoogleで調べてもホームページすら出てこないし……おしゃべり栓抜きは映画に出てくる奴がそのままAmazonとかで売ってるんだけど……えっと……なんか分かったらまた追記しますね!