“Love Comes to the Executioner” ──いまとなってはちょっとレアかな、みたいな

 なんの気もなしにこの作品を観ていたら途中でジェレミー・レナーが嘔吐しはじめた。
 Pixivだったらキャプションあたりに「注意! あなたの推しが嘔吐しています」とか書いてくれるのに、映画にそういう配慮はない。私がもし推しの嘔吐が地雷のオタクだったら予告なしに与えられた強い映像的暴力に耐えられず嘔吐してしまったかもしれない。
 だからこれは親切心から書いておくのだが、本作ではレナーが嘔吐します。

 あらすじ:
 ヘックは大学を卒業するなりその足で実家に戻るとアルコール中毒の母親は重病を患っており高額の治療費を必要が必要となる。町で教師の仕事を見つけようとするも家族の犯罪歴(父と兄が死刑囚)などが問題になって全く上手くいかず、結局見つかったのは刑務所での死刑執行者兼ラテン語教師の職だった。その刑務所には高校のラテン語クラブの人間を全員殺害した罪で死刑囚をしている実の兄・チックがおり、その隣にはチックの元カノであるドリーが唯一の女性死刑囚として収容されていた。囚人相手にラテン語を教えたり死刑を執行したりチックと喧嘩をしたりしているとドリーと恋に落ち、牢越しにセックスをしたり死刑執行台に連れ出してセックスをしたりしているとドリーが妊娠したというので彼はベラドンナから抽出した仮死状態になる薬を用いてドリーを脱獄させようとする。チックとドリーの死刑執行を見届けて家に帰り、チックを殺してしまったことに対する呵責から拳銃自殺を試みていると、チックとドリーが家に帰ってくる。ちょっとした手違いでチックまで仮死状態になっていたのである。

 あらすじをご覧になればわかる通りブラックコメディ映画、ということになるのだが、ヘック役をしているジョナサン・タッカーはあんまり魅力的とはいえないし、台詞や演出もそんなに笑えないし、あまり意図のわからないところでカットの割り方や音楽に手垢のついたような工夫を混ぜてきたりと、あまり成功しているとは言えない出来だ。見ていてうんざりするほど退屈、というほどではないものの、わざわざ英語版DVDを観る価値があるかと言われたら即座にノーと答える。
 ただしそれはあなたがジェレミー・レナーを愛していない場合の話であり、もしあなたがジェレミー・レナーを愛しているのならば見るべき理由はたくさんある。レナーは前後の『S.W.A.T.』『ジェシー・ジェームズの暗殺』でもやっていた犯罪者の役を好演しているし、のちの『ザ・タウン』にもつながる陽気な危険人物という雰囲気がよく出ていると思う。『メッセージ』では控えめに映された嘔吐シーンもわりとガッツリあるし、死刑執行台へ向かうシーンではなんと1分半も「アメリカン・パイ」を歌いながら廊下を連行される。めちゃくちゃ歌が上手い。さらに言うならば死刑執行直前に医師から失禁防止用のアナルプラグを渡されるというシーンがある。アナルプラグとともに映るレナーというなかなか他の作品では観られない画が見られるし、多分アナルプラグと同じ画面に映ることは二度とないだろう。推しがアナルプラグと共に映っていると嬉しい向きには是非ご覧いただきたいし、アナルプラグ×推しが地雷という方にも歌のシーンだけでいいから見てほしい。そういう一作です。