大学時代の先生と、教室のような場所で立ち話をしている。アメリカ文学の先生で、私はイギリス文学をやっていたから指導を受けることはなかったけれど、ゼミなどではよくしていただいた。
私は翻訳で苦労したことを先生に話している。笑い話として。すると、いまも院にいる後輩がやってきて、話に加わる。彼はさっきまで私と一緒に同じ短編を読んでいたのだ。
帰って翻訳を進める。先が見えない作業だと思っていたのに、再開してみたら残り2行くらいで、すぐに終わってしまう。
最後まで訳し終えた途端、私はどこか知らない、東南アジアの国の居間に立っている。傍らに家主と思しき女性が立っている。
「チャイニーズ・タイワン」
と私の目を見据えてそう言う。
赤いサリーのようなものを着た彼女はひらりと表に出ると、戸口に吊るしていた金属板に塗装スプレーを吹きかける。
私も思わず外へ出る。うぐいす色に塗り替えられた板。女はもう一度同じ言葉を繰り返し、家の中へ消えていく。
足裏から妙な感覚が伝わってくる。下を見おろすと、砂や石ころの上にネイビーブルーのペンキを厚く塗ってある。乾いていて、何度かジャンプをすると妙な心地よさを感じる。
ふと坂の上に目を向けると、地元の人々が色とりどりのペンキをこちらに向けて流しているのが見える。藍色。蛍光ピンク。ライムグリーン。缶をほとんど逆さまにして、流れのなかに鮮やかな色を足していく。その向こうに、埃っぽい空が見える。
ペンキは粘ついて、ゆっくりと坂を降りてくる。私のもとまでやってくることはついぞない。