かコ3(第3回かぐやSFコンテスト)最終候補作全作感想

まえがき

◎これは何?

第3回かぐやSFコンテストの最終候補の全作に関する感想です。

◎第3回かぐやSFコンテスト(以下かコ)って?

4000字でやる匿名のやつ(注:私はBFCのことも「6枚でやるやつ」と呼んでいます)。私が最終選考に残っているため10分の1の確率で私の作品が読める。結果発表前に著者がバレたり投票を不正に誘導しようとすると失格になる。

◎なんでわざわざ全作感想を?

いまのところ「公開直後に速読して確認したが男性器が出てくる作品はひとつもなかった」「この作品がエッチだった」みたいなありとあらゆる作品をエッチな視点で読もうとする私のような埒外以外には絶対に投票の誘導に寄与しない情報(※かコはSFのコンテストなのでエッチだからという理由で投票をするやつはまずいない)しか出していないのですが、そろそろここらで全作にまんべんなく感想を書いておかないといけない気がした。全作にまんべんなく感想を言うのはOKだそうなので、頑張って書く。王様の耳はロバの耳~!!

◎目指すところ

絶対に誰の投票の参考にもならないであろう、完全に主観的であり毒にも薬にもならない文章を目指して書きます。ほんとうに雑な感想なので著者の皆様には申し訳ないという気持ちしかありません。あたしを失格にしてください……(両手首を合わせ、掲げる)

注意

・なるべく配慮をしたつもりなのですが、それでもなおネタバレがあると思います。

・著者の皆さまは「こ、こいつ、生かしちゃおけん!」みたいになるかもしれませんので、名前を出してやれるようになってからお読みになったほうがいいと思います(かぐやSNSファイトクラブ、開幕……)

本題

「叫び」

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馬と人間の不均等な関係性に焦点を当てた作品、とでも要約しましょうか。世界中で馬が聞いたこともない叫びを上げはじめてからの出来事と、馬たちからのメッセージが交互に綴られます。なぜ「未来のスポーツ」なのかは、お読みいただければわかるはず。

ソリッドで重苦しい調子の語りがラストでイリュージョンのように加速していく手つきが見事です。語り手が誰なのか、ということだけちょっと気になりました(最後に「私」が出てくるけれど、そこまではどうかしら)。

馬が好きな人に読んでほしい作品。私は皆川博子『聖餐城』(馬と人の関わりについての描写がよい。あと皆川博子は馬糞の描写をなぜか一作に一回は入れている)とか古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』なんかを思い出しました。

 

ベントラ、ボール、ベントラ

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へ、変な話……と思って読んでいるとこれが「ドッジボール」の変化したやつという情報が開示される。んなわけあるかいな。めっちゃ笑ってしまいました。

ドッジボール」がどう変化しているかというと、ボールは何でもよくて(誰かの家の犬か誰かのヘアクリップなど)、「内野」にいるプレイヤーたちはそれを特定するところから始めないといけない。

田舎の平和な遊びのようにも見えるけれど、戦争の影がちらついていたり、そもそも「内野」が巻き込まれから始まるあたりがどことなく陰謀論っぽいというか……Ingressの田舎のやつみたいな?(ポータル守ったりはしないけど)。のどかさと不穏さの共存が魅力ですね。

小川哲(結婚して震撼が走った)『ゲームの王国』の最初のほうが好きならこれもきっとお好きでしょう。

 

「勝ち負けのあるところ」

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女子プロレスの興行の最中に地球へ宇宙人がやってきてしまう。ムキムキの六本腕を持つ宇宙人(3m)たちは、なぜかステゴロを要求しているらしい。格闘家たちが討ち死にするなか、なぜか弱小レスラーの〈私〉とサラにお呼びがかかり……

自分のプロレスラーとしてのキャラ付けによって女性のステレオタイプが強化されてしまうことに対する嫌悪感や、性一致手術を受けたサラに対する仕打ちなどは、女子プロレスを知らない私も日常のいろいろなことを思い出すところでした。そういった要素が見事に昇華されるラストが素敵です。

合わせて絶対にみてほしい映画:宇宙人とステゴロで殴り合う作品と言えば? そう、映画版『バトルシップ』ですね。あとロバート・アルドリッチカルフォルニア・ドールズ』は本当に名作だから観てほしい。

 

「プシュケーの海」

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プシュケーとは息、魂もしくはいのちなどを指す言葉だそうです(いまwikiで見た)。下半身を失った元競泳選手ツグミは、特殊なインプラントでイルカから身体感覚を受け取り、疑似的に泳いでいるという状態を体験できるようになるが……というお話。

ここまでどちらかと言えば奇想寄りの作品ばかりを続けてご紹介しましたが、こちらは科学的説明がイメージの補強に用いられている作品。静謐な雰囲気のなか、短く刈り込まれたセリフのなかにツグミの激情を感じますし、ラストもとても印象的です。ちなみに、クリッキスはイルカが出すクリック音だそうです。

合わせて読みたい:『マルドゥック・スクランブル』(この流れでエッチなイルカが出てくるからって理由で紹介することある?)

 

「マジック・ボール」

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女子寄宿学校でベースボール好きのはねっかえり少女・ダーシーと出会ったイライザは、自分の投げたボールが消えることに悩んでいた。やがてイライザは家庭の事情で学校を出るが、南北戦争(恐らく?)がはじまってしまい……というお話。

すっとぼけているのがそのまま魅力、という小説でした。ユーモア小説のような始まり方をしたかと思えば、ダーシーが男装して出征するくだりのセリフに思わぬ激情があったりもします。この展開で死なないことあるんだと私も思いました(笹帽子さんのブログ参照)

合わせて読みたい(そろそろこのコーナーしんどくなってきたんだけど……):川原泉笑う大天使」「甲子園の空に笑え!」、石川博品後宮楽園球場 ハレムボール・ベースボール」

 

「月はさまよう銀の小石」

virtualgorillaplus.comエッチだと思った最終候補作品その①(お父さんが鳩をボールで撃ち落とすところに萌えました←それってエッチなんですか?)。ネアンデルタール人の生き残りにしてピッチャーだった父と息子(語り手)のお話です。

とにかく情感に訴えかけるものがあり、エモ勝ち(相撲の決まり手)です。「自分ではない誰か」とはおそらく整形手術のことでしょうか。強いて気になる点を挙げるとすれば、そのボールって成層圏を突き抜けるときに燃えませんか? という一点なのですが、まあ早かったらどうにかなるのかな……(「マジック・ボール」にもそんなことが書いてありましたし……)。

合わせて読みたい:『僕のヒーローアカデミア(エッチな父繋がり!?)

 

「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」

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多元宇宙上の歴史を改変して「いまないもの」を取り出してくるという借り物競争、という荒唐無稽な小説。

こんなんもう考えたもん勝ちでしょう、という設定はもとより書きぶりがいきいきしていて素晴らしい。実況(なんで小学校の運動会にこんな専門的な実況者がいるんだ…)の挟む雑学にいちいち「そんなんあるんすか!?」となる。お父さんも博学だし……学術都市とかの小学校なんかな……あと、色々な方が指摘されていますが「かぐや」性(無茶なものを持ってこさせるやつ)も回収してるのが小憎いですね。

合わせて読みたいものは思い浮かばないのですが、この作品を読んだ直後に偶然Twitter「籠を背負った先生がマツケンサンバを踊りながらやる玉入れ」というのを見ました。そんなんアリか? 私もやりたいのですが……

 

「月面ジャンプ」

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今年のオリンピックは国民全員参加による「月面ジャンプ」一種目しかない。それはきょう地球が「ロッシュ限界」を超えて接近してきて、月が壊れてしまうせいだった……というお話。

どこまであらすじを紹介したものか……というのは由緒正しいショートショートの雰囲気を感じるからなのですが。こちらも科学的説明をイメージの補強に使っている作品。子どもの語りのすき間から末期的な状況が見え隠れするというか、ひとつ読み解くたびに震え上がるような仕掛けがあります。喜劇と悲哀の相混じるこの感触はショートショートの醍醐味でしょう。

合わせてみてほしい映画:『ドント・ルック・アップ』(惑星メチャクチャつながりで……)

 

「あの星が見えているか」

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身体矯正が進んでいく世界で、手術をしていない眼球で遠くのものを見ることを競う「競視」のお話。

身体矯正やスポンサーの話など未来の(あるいはスポーツがそもそも持っている)世知辛さがきめ細やかに描かれているがゆえに、「先生」との記憶や普段温存している目を解放したときの段落が鮮やかに輝いて見える。

状況とドラマとイメージのバランスがよく取れていて、見事なウデマエを感じました。視力検査じゃん……!?というところからその読後感に至れるのだからすごいことですよ。

私が思い出したもの:呪術廻戦のずっと目を隠してる先生

「歴史的な日」

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猛暑や雹などの異常気象で屋外体育がなくなったことで子供たちの体力が低下し、校庭のトラック上にテントを張った。施工を担当した語り手はテント完成記念の式典に呼ばれる。

労働者ものとしてとてもいいし(ちょっと斜に構えてる感じなんだけどつい子どもを応援しちゃうあたり)、この設定にはかなり「ありそう」感を感じる。私もここ数年夏って暑すぎてあんまり外に出ていないですし、気候の変化をひしひしと感じています。地に足がついていて淀みがなく、素敵でした。エッチだと思った最終候補作品その②です(ついつい応援しちゃうところに萌えました←本当にそれはエッチという表現が適切ですか?)

思い出した映画:『アントマン』(作業服を着ているポール・ラッドが出てくるから)

むすびに

いかがでしたか? まあこんなんいかがでしたかもクソもないわよね。いや、これ以上何も用意せずSNSをやっていたら本当に失格になるんじゃないかなって思って書いただけなんです……まんべんなく感想を書いたら許されが発生するって聞いたから……

ここまでお読みくださった皆さん、私が何に投票したかも私がどれを書いたかも多分わからないですよね。わからないですよね? そうと言ってください。……わかってしまいましたか? そう……ならば、あたしを失格にしてください……。